物流企業で生産性を上げる人材育成手法

1.はじめに

働き方改革法案が成立した。社員の生産性向上が新聞等で叫ばれているが、生産性と効率性を混同して書かれている記事もあり、少し違和感を持つことがある。生産性はあくまでも付加価値の話で、効率性よりも広い概念である。生産性が高ければ効率性も高くなるが、効率性が良くても生産性が高いとは限らない。例えば売れない商品をいくら効率性高く生産しても、売れない以上付加価値はゼロで生産性は高まらない。生産性のないことは無駄と呼ぶ。

 付加価値とは、売上から他社への支払いを引いた金額で、企業の社員の給料、利益、税金、金利などの支払いを支える金額である。それを全社員数でわったものが生産性である。物流企業が働き方改革により社員の生産性向上を図るためには、効率性を向上させるのはもちろんだが、企業の総合的な競争力、顧客満足の向上、品質管理も含めた生産性向上のための取組みが重要となる。必要なのは持続性のある生産性向上で、短期的に利益だけを増やすためのコスト削減ではない。

 そのためにどのような人材育成方法が必要か検討したい。なお、人材育成といった場合、教育研修を思い浮かべる方も多いと思うが、実際には、採用から退職での間に、社員がその能力を十分に発揮きるように行う人的資源管理の施策すべてが、人材育成である。教育研修はもちろん、人事異動・ローテーション、人事考課なども[KT1] 人材育成上、必須の人的資源管理施策である。企業は仕事を通して社員を育成する必要がある。この論説では、紙面も限られているため、人材育成に関わる人的資源管理のうち、パフォーマンスマネジメントについて触れる。

2.パフォーマンスマネジメント

2-1経営者のリーダーシップと目標管理

デービット・アトキンソンは企業の生産性向上のための12の方策を指摘している。その中で、今回のテーマに沿う項目は、「リーダーシップ」、「社員一人ひとりの協力を得る」、「継続的な社員研修の徹底」、「組織の変更」、「生産性向上ための新しい技術に投資」、「生産性目標の設定と進捗」の6項目がある。

言うまでもなく、経営者にとって、生産性向上にコミットし、それを実現する組織を築き上げることが、最も重要な任務である。そして、経営者は、大きな目標を設けつつ、それを実現するために各部門が達成すべき細かい目標を立て、社員一人ひとりから協力を得る役割がある。これが、広い意味での経営者のリーダーシップである。


 

全社目標を部門目標、個人目標に展開し、全社目標を達成させるための経営管理手法が目標管理である。目標管理には、全社目標達成に向けた業務管理、社員の育成支援、パフォーマンス評価といった機能もある。全社目標達成やパフォーマンス評価といったことばかりが意識されがちであるが、業務遂行を通じた社員育成という側面があることを忘れるべきではない。目標管理の導入率は労務行政研究所の調査では80%を超える(図1)。

まず現在の生産性を測る尺度を決め、目標とする数値を設定する必要がある。物流業界では、付加価値向上といっても、効率性との混同から、コスト削減に偏りがちである。当たり前の話しだが「売上‐コスト=利益」である。コストは自社でコントロールできるため、コスト削減ばかりに気を取られがちであるが、付加価値を上げるためには、売上の向上を目指す必要がある

 「売上=価格(Price)x 数量(Quantity)」である。価格を上げつつ数量を増やすことを目標とするべきである。(価格を下げて数量を上げることも考えられるが、この論説の趣旨と異なるのでここでは触れない。)そのためには、生産の3要素Q(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)を管理しなければならない。物流にあてはめれば、物流品質と納期管理となる。単価の値上げ、単位当たりの取扱量増加、事故削減、納期短縮など、あえてコスト削減を目標とせず、付加価値向上を目標とすることがポイントである。

 注意点としては、価格向上は社員だけが対応できる目標ではないので、経営者が率先して顧客と折衝するなど強いリーダーシップを発揮するべき目標である。

ただし、目標管理の運用にあたっては、表1の通り課題も多い。目標設定や進捗管理で、上司と十分なコミュニケーションが取れていないことが主な課題である。コミュニケーションが不十分であれば、経営者の意思が十分に伝わらないだけではなく、社員の育成効果も薄れてしまう。

2-2パフォーマンスマネジメント

こうした目標管理の課題を補うために考えられたのがパフォーマンスマネジメントである。コーチングなどコミュニケーション手法を導入すると同時に、PDCAサイクルを明確化させた人的資源管理手法である。目標達成につながる行動を社員本人と一緒に考えながら、動機付けを行う。その行動結果を受けて、定期的にフィードバックを行い、コーチングにより社員に気付きを促し、行動変革を行うことで、社員の能力開発につなげる手法である。定期面談を通じて、社員に動機付けを行ってモチベーションをアップさせることが可能で、教育効果も高くなる。

パフォーマンスマネジメントでは、管理職にとってコーチングが重要なコミュニケーションスキルとなる。コーチングのポイントは、一人ひとりの内側にある可能性、能力、やる気、自発性、責任感、アイデアなどを引き出すことにある。教え込むのではなく、引き出すコミュニケーション方法である。一方、ティーチングはすべての人に対して、同じ内容を直治方法で伝える画一的なアプローチである。コーチングは個々の相手に対して、指導すべき内容と方法を変える個別のアプローチとなる。コーチングは「幅広い視点を与え、選択肢に気付かせること」で、現状と目標、そして自発的な行動に焦点を当てて、それを促進してゆく。

2-3 OKR

  現在、OKR という目標管理の手法が話題であるが、目標管理、パフォーマンスマネジメントの発展形で、目標設定と遂行期間に特徴がある。OKRは”Objectives and Key Results”(目標と主な結果)の略である。

Oは定性的なものを一つだけ決め、KRは定量的なものを3つくらい決める。これらを使って、グループや個人を大胆なゴールに集中させる。Oは一定期間(四半期)の達成目標を決める。短期間で何度もPDCAを回すことが目的である。KRは期間の終わりにOを達成できたかどうかを判定するのに使う。

Oはミッションステートメントに似ているが、遂行時間が短く設定されている。社員を鼓舞し、設定した期間内にやり遂げるのが難しく、設定した社員が、他社との係り無く独立して設定できなければならない。

KRは、Oの感覚的な言葉を定量化する。Oで書いた定性的な表現を、具体的な意味に定義することになる。一般的には3つのKRを定義する。KRの基準は、測れるものなら何でもかまわない。KRの設定では、社員が背伸びしても不可能ではない仕事を成し遂げる後押しをできるような最適点を探すことが必要である。

倉庫事業者のBCP策定

1.物流事業者のBCP策定の状況

国土交通省「荷主・物流企業のBCPの現状について」(2014年)によればBCPの策定状況は回答のあった物流事業者233社のうち、21.5%にあたる50社しか策定していない。荷主は回答のあった75社のうち57.3%の43社が策定している。

物流事業がBCPを策定していない理由としては、図表1の通り、スキル・ノウハウの不足が過半数を占め、情報不足、人材不足が30%を超えている。

図表1 BCP未策定の理由             図表2 物流事業者BCP策定方法

項目 割合(%)
スキル・ノウハウが不足している 54.5
情報が不足している 36.5
人手の確保ができない 30.3
費用の確保ができない 16.3
必要性や効果を感じない 12.9
コス的に見合わない 11.8
その他 20.8
項目 割合(%)
業界団体のガイドラインを参考とした 44.4
国や地方自治体の公表資料を参考とした 33.3
BCP関連の書籍等を参考とした 31.1
取引先の指導を受けた 17.8
ISO等の規格を参考とした 17.8
コンサルティング企業を活用した 6.7
その他 13.3

荷主と物流事業のBCP策定項目には「自社の災害対策本部の役割と組織体制」、「従業員との連絡手段の確保」、「従業員の確保の体制」などさまざまなものがある。

アンケート項目で荷主が物流事業者に策定を求める項目(荷主ニーズ)と物流事業者のBCP策定項目についての比較がある。

 荷主ニーズに対して、物流企事業者が策定したBCP項目のうち差異が10%以上ある項目が図表3である。

その中でも荷主ニーズは高いが物流事業者の対応が遅れている項目としては、「輸送中の車両の位置情報の共有」(差異41.4%)、「道路等の交通インフラの情報収集」(差異26.9%)である。一方、荷主ニーズは低いが物流事業者が対応している項目としては、「ITシステムの対策」(差異37.7%)、「荷役機械等の確保の体制」(差異18.7%)、「ITシステムの標準化」(差異13%)となっている。

荷主はサービス面でのニーズが高いのに対して、物流事業者は施設対策を重視している傾向がわかる。

 倉庫関連のBCP項目について詳細を見ると次のようになる。荷主ニーズは高いが物流事業者が対応できていない項目としては、「手作業による倉庫出荷作業フローの検討」(差異15%)、「倉庫内貨物の荷崩れ防止対策」(差異11.3%)、「貨物が損傷した場合の荷主との取扱方針」(差異10.1%)である。一方、荷主ニーズは低いが物流事業者が対応している項目としては、既に述べた「ITシステムの対策」、「荷役機械等の確保の体制」、「ITシステムの標準化」以外にも、「非常用発電・通信装置の設置」(差異12.2%)がある。

ここでも荷主がサービス面でニーズが高いのに対して、物流事業者は施設対策を重視している。

装置産業の物流事業者、特に倉庫事業者にとっては、自らのアセットが事業継続のためには重要である一方、荷主にとっては物流事業者に預けている自社貨物の状況についての情報が重要なことは容易に理解できる。

 流通経済大学矢野裕児教授は、大規模災害などで事業継続が直面した場合、重要になるのは「見える化」、各種情報の可視化だと指摘する。特に効果が大きい分野は物流ルートの代替などを含む車両関連と在庫水準の変更や分散化などに関わる施策だと指摘する。

 倉庫事業者はこうした荷主ニーズを配慮しながらBCPを策定することが重要である

なお、BCP策定にあたっては、図表2の通り、業界団体のガイドラインを参考とするケースが44.4%と最大で、国や自治体の公表資料を参考とするケースが33.3%となっている。

2.倉庫事業者のBCP策定のポイント

日本倉庫協会「事業継続計画書(BCP)策定のてびき」を参考に、全社的なBCP策定のポイントを説明する。

  • 事業継続の体制整備

事業継続は、組織内の様々な問題を扱うため、原則すべての部署が参画する。有事の時には事業継続活動の核となる「災害対策本部」(図表6)を立ち上げ、初動対応や復旧活動を担うチームを編成する。

 この体制は、平時から編成し、機能毎に復旧に必要と想定される環境整備や資材調達方法等について検討したり、訓練を実施したりして会社の事業継続対応力を維持・向上させることが必要である。

  • BCPの作成

図表5のフローの通り多岐にわたるため、各項目のポイントに絞って説明する。

2.1目的を明確化する

BCPを何のために作成するのか、経営者の意志を反映した内容で記載する。

2.2想定するリスクを決める

考えられるすべてのリスクを対象にすると検討事項が多岐にわたってしまうため、日本企業にとって最も大きな自然災害リスクである地震(震度6強以上)を想定リスクとして取り組みをスタートさせ、順次対応するリスクを増やしてゆく。

2.3基本方針を決める

基本方針は、平時および有事の際に行動の拠り所となる。人命尊重、社会的責任、社会貢献、経営へのインパクトなどの視点から方針を定める。

2.4中核事業の特定をその目標復旧時間を決める

中核事業(最優先で復旧するべき事業)の絞り込み

  災害時には人的にも設備的にも経営資源が不足するため、中核事業の範囲を通常の3割程度の人員や設備

で回せる規模に絞り込むのが望ましいとされている。中核事業の絞り込みにあたって検討する基準には、「

事業収入への貢献度(荷主別事業規模、拠点別・倉庫別事業規模など)」、「施設的な影響度(倉庫面積、倉庫

事業規模、荷主別倉庫利用面積など)」、「社会への影響度」などがある。

  目標復旧時間の設定

    中核事業に対する利害関係者(顧客、協力会社、株主、金融機関など)からの要請や自社財務状況などを勘案して、中核事業をどの程度の時間内に復旧させるのか、目安として目標復旧時間を定める。

2.5平常時の事業継続活動を決める

平時には、有事に備えて事前に行っておくべき対策の検討や訓練・教育などの定着活動などを通じて、

事業継続マネジメントのPDCAサイクルを確立する。

2.5.1事前対策計画(PLAN)

まずは、緊急時の社内及び重要な理解が関係者との連絡体制の確保が重要となる。

(1)緊急時体制の確立

対策本部と対策支部で役割分担しながら災害復旧に取り組むが、連絡は一元化することが重要である。各役割で最低でも第3優先順位まで責任者候補を任命する。衛星電話やMCA無線等、緊急時にも利用可能な連絡手段を用意する。

(2)重要な顧客・主要協力会社の連絡先

重要な顧客や主要な協力会社と直ちに連絡ができるように連絡先一覧を整備する。施設・設備の管理の委託業者についても、リスト化しておく。

(3)事前対策計画の整備

   中核事業の継続や目標復旧時間内の復旧には、投資を含んだ事前対策が必要となるため、中期的な対策

含めて立案し、「事前対策計画」としてまとめる。この計画は継続的に見直すことが必要である。

2.5.2BCP定着と事前対策の実施(DO)

有事の再に従業員がBCPで定めた基準やルールに従って行動できるように、BCPを浸透・定着させる必要があり、教育と訓練が有効である。現実の災害を想定した訓練を繰り返し実施し、緊急時対応の精度を向上させる。

2.5.3訓練を計画する

訓練には机上訓練や実地訓練などがある。自社のレベルに応じて、テーマ、方法、頻度、対象組織などを選定して、訓練を計画して繰り返し実施する。

2.5.4点検と評価(CHECK)

定期的にBCPを点検して、問題点を改善し、自社にとって最適なBCPにして行く必要がある。点検項目としては、災害時体制、事業継続活動に関する文章(規定、基準、手順書など)、人命に関わる備蓄品(医療品、食料、水など)状況、事前対策計画の実施状況などである。

2.5.5経営者による見直し(ACT)

経営者は必要に応じて、復旧方針を見直したり、事業資源を割り当てるなど、対応策の改善を指示する。

2.6災害時の事業継続活動を決める

災害時に伴うBCP発動から復旧するまでの一連の基準、行動・手順、役割などを具体的に明確にする必要がある。

2.6.1発動基準

平時の状態からBCPを発動させ、緊急事態に体制・行動へ移行する基準です。初動の混乱を避けるためにも明確に定義する必要がある。

2.6.2緊急対応行動

災害発生から2~4時間の緊急時対応行動を定める。災害発生直後の安全確保・二次災害防止、従業員の安否確認、災害対策本部の立ち上げ、復旧活動の開始方法について定める。

2.6.3行動チェックリストを作成する

災害発生直後の緊急行動に準じた復旧作業の行動チェックリストを予め準備して、有事の際には、行動チェックリストに従い、未実施の項目が内容に復旧作業を進める。

2.6.4復旧のための役割分担

復旧に必要な作業を分類し、主要な役割を明確にした上で、従業員や組織に役割分担する。役割分担は自社の規模や業務分担などにより異なるので、実態に合った役割分担を行う。

2.6.5復旧体制による復旧活動

緊急対応行動で落ち着いてきたところで、経営者が中核事業の復旧方針を決めて、復旧に向けた活動を開始する。正確な判断を行うため、被害や復旧の情報を災害対策本部で的確に把握できるように、情報の集約が極めて重要である。

2.7復旧宣言

復旧活動中は災害時緊急対応が発動された状態である。BCP発動状態から平時の状態に戻った場合、復旧を宣言する。

 3章では自社の中核業務の早期復旧を目的としたBCPの策定のポイントについて述べたが、2章で述べたように、顧客が重要と考える「手作業による倉庫出荷作業フローの検討」、「倉庫内貨物の荷崩れ防止対策」、「貨物が損傷した場合の荷主との取扱方針」などの項目にも配慮し、対応していることを荷主へ予めアピールすることで、安心感を与えることも重要である。

参考文献

国土交通省「荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン」

http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk2_000014.html

国土交通省「荷主・物流事業者のBCPの現状について」

http://www.mlit.go.jp/common/001055853.pdf

日本倉庫協会「事業継続計画書(BCP)作成のてびき」

http://www.nissokyo.or.jp/bcp/index.html