環境変化とダイナミックケイパビリティ

菊澤 研宗「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学

現代 の よう な 人口 減少 時代 に 必要 な 企業 経営 とは、 環境 の 変化 を 感知 し、 機会 を 捕捉 し、 既存 の 知識 や 資産 や 資源 を 再 構成、 再利用、 そして 再 配置 し て、 付加価値 を 最大 化 する 経営 なので ある。 そして、 これ を 実現 する には、 ダイナミック・ケイパビリティ を 発揮 し て 既存 の 資産 や 資源 や 知識 を 再利用 し、 指揮者 の よう に オーケストレーション し て( こちら を 参照)、 正しい こと を 行う 経営 が 必要 なので ある。 •

かつて、 英国 では ペスト が 流行 し、 それ によって 人口 が 半減 し た と いう。 英国 オックスフォード大学 出身 で ゴールド マン・サックス 金融 調査 室長 だっ た デービッド・アトキンソン に よる と、 この とき、 英国 の 産業 に 大きな 変化 が 発生 し た と いう。 労働者 が 激減 し た ため、 英国 では 人手 が 必要 な 穀物 の 栽培 から、 人手 の いら ない 畜産 や 葡萄、 野菜、 果物、 麻 など といった 付加価値 の 高い 作物 の 栽培 へと 移行 し、 環境 変化 に 適応 し た と いう。  

同じ よう に、 日本 企業 も 既存 の 資源、 資産、 技術 を 再 配置、 再 構成、 再利用 し て 付加価値 を 高める ダイナミック・ケイパビリティ を 発揮 する。そうすれば、まじめな日本企業もパラダイムの不条理に陥ることはなく、日本経済も破たんしないだろう。

少しストレッチする任務の重要性

『自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』折木良一

•レンジャー徽章は取得したところえ昇進が有利になるわけではなく、手当がでるわけでもありません。そこで得られるのは、名誉とプライドだけですが、驚くべきことに、レンジャー訓練の前とあとで、隊員は別人のように変わります。

•自らの限界までに挑戦したとう自負心、大概のことでは自分は潰れることはない、何があっても生き延びて戦えるとう自信に満ちた表情を、レンジャーを終えた隊員は見せてくれます。そして通常の部隊に戻ると尊敬の眼差しを向けられますから、レンジャー徽章をもつ隊員がいることで、その所属部隊も活気づきます。

•つまり個人の成長だけでなく、その隊員が所属する組織にとっても、レンジャー訓練はとても有用なのです。この訓練は隊員個人を鍛え、強くすることはもちろん、最終的には自衛隊全体を強くすることにつながっているといえるでしょう。

•一部の優秀な人たちは、とやかくいわなくとも自分で実践し、自己の力を高めてゆける。そこで現場レベルのパフォーマンスの底上げに影響するのは、動機づけ次第で限界に挑戦するかもしれない残りの大半の人たちなのです。

人と組織を動かす5原則

『自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』折木良一

•日ごろ行っている、備えの核心である教育訓練も、よほどしっかりとした目的意識、心構えをもって積み上げていかないと、いざというときに組織としての能力を発揮しえないことになります。

•事あるときには生死を共にする組織である自衛隊において、統率(リーダーシップ)の根本は、指揮官と部下との相互信頼です。

•一朝一夕につくらげられるものではなく、日ごろの業務のなかで意識しながら育てていくものだと思います。

•部下がリーダーや組織のために自然に何かをしたいと思うのは、リーダーを信じているからこそであり、リーダーもそれに応えなければなりません。

•そのためにはリーダーとして普段の教育が重要であり、任務を行うには目標を理解させることが原点です。

•力のいることですが、忍耐もリーダーシップの一つです。

4種類の人材

ルイス・ガースナー『巨象も踊る』

世の中には4種類の人がいる

•動きを起こす人

•動きに巻き込まれた人

•動きを見守る人

•動きが起こったことすら知らない人

この本はIBMで動きを起こした人たちをテーマにしている。

戦略は実行が重要

『巨象も踊る』ルイス・ガースナー

独自の戦略を開発するのは極めて難しい。 結局のところ、どの競争相手も基本的におなじ武器で戦っていることが多い。

したがって実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やりとげること、正しくやりとげること、競争相手より上手くやりとげることが、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。

世界の偉大な企業はいずれも、日々の実行で競争相手に差をつけている。

IBM経営者の条件 

『巨象も踊る』ルイス・ガースナー

•エネルギー

  •極めて精力的 •体力がある •行動を優先させる傾向が強い

•組織を率いる指導力

 •戦略のセンス •人々に動機づけを与え、活気づける •熱意を伝えて組織の潜在力を最大限に引き出す •強力なチームを作る •他人から最善のものを引き出す

•市場でのリーダーシップ

 •高等でのコミュニケーション力が卓越している •業界や顧客との関係にCEOとして関与し参加する •

•個人の資質

  •頭脳明晰 •自身をもち、同時に何を知らないかを知っている •聞き上手 •厳しい決定を下す―ビジネスと人事で •情熱が目に見える •顧客第一に徹する •スピードと影響を本能的に求める

休みない自己改革

ルイス・ガースナー『巨象も踊る』

•IBMは環境と伝統、勤勉の組み合わせによって、そして幸運に恵まれて、いまでは新しい種類の企業、一見矛盾する性格を併せもった企業の先駆けになる立場に立つようになった。その性格の一部を、わたしは2001年の年次報告書に書いた最後の「株主への手紙」でこう表現した。

•「規模が大きく、しかも動きが速い。企業家精神があり、しかも規律がある。科学を重視すると同時に、市場主導型である。世界規模で知的資産を作りだせるとともに、それを個々の顧客に提供できる新しい種類の企業であり、つねに学び、常に変化し、つねに自己改革を行っていく。強固で、事業を絞り込んでいるが、新しいアイデアをいつでも受け入れる。官僚主義、偽善、駆け引きを嫌う。実績に報いる。そして何よりも、活動のすべてで人材と情熱を求める。」

取引コスト理論と組織デザイン

市場に代わる最もシンプルな組織は、ピア・グループである。ピア・グループとは仲間組織のことであり、上下の階層がなく、直接的な監督者もいない単純な平面的な組織となる。

ピア・グループが巨大化すると、メンバーは相互に他のメンバーの行動を十分把握できなくなり、統治制度としての相互監視システムや相互調整メカニズムが十分働かず、機会主義的行動が出現する。巨大化したピア・グループでは、資源は非効率に配分されることになる。この問題の解決のための一つの手段が単純階層組織である。単純階層組織では情報は1人の管理者から各メンバーに伝えられるため、情報伝達をめぐる取引コストは数学的に大幅に節約される。意思決定に必要な時間に関しても、ピア・グループよりも単純階層組織の方が短いので、情報をめぐる取引コストも節約される。

しかし組織が巨大化すると、管理者は限定合理的なので、1人の管理者によってすべてのメンバーを監視することが非常に難しくなる。メンバーの機会主義的行動が出現し、監視・調整するための組織内取引コストは極めて高くなる。組織内取引コストを削減するために、階層が2層以上ある多段階階層組織構造が新しいガバナンスとして展開される。この組織構造によって、組織メンバーはより効率的に管理され、組織内取引コストは削減されることになる。

取引コスト理論

取引コスト理論はコース(Ronald H. Coase)により生み出され、ウィリアムソン(O. E. Williamson) によって精緻化された。

「人間の合理性は限定されており、人間はすきがあればたとえ悪徳的であっても自己利益を追求する機会主義的な存在となる。このような限定合理的な人間世界では、市場取引する場合、互いに取引を有利にすすめようと駆け引きが起こるので、取引上の無駄、つまり取引コストが発生する。取引コストが小さい場合には市場取引は続けられるが、このコストがあまりにも大きい場合には、市場取引に代わって組織が発生してくことになる。」

物流史の組織論からの考察

ポルトガルは、大航海時代を切り開く様々なイノベーションを創出したが、物流のグローバル化の面で組織的には、取引コストの大きいピア・グループのまま組織化されることなく、国力の衰退と共に、その役割を終えていった。

物流のグローバル化に大きな役割を果たしたオランダ東インド会社は、ピア・グループよりも組織化が進み単純階層組織になり取引コストが削減した。しかしながら組織の不条理により専制的なガバナンスが維持され、ガバナンスの民主化が進まず、取引コストの大きい組織は維持されたままであった。

イギリス東インド会社は、オランダ東インド会社よりも組織化が高度化し階層組織化も進み、ガバナンスの民主化も進んでおり、オランダ東インド会社より組織の取引コストは小さくなっていった。しかしながら、組織の不条理を生む独占的組織は社会的に受け入れられずに解散することとなった。

オランダ東インド会社、イギリス東インド会社は、約200年間継続したグローバルな会社であった。時代の外部環境に合わせて変化していったが、特権会社で国家、政治家、株主などの関与が深いため取引コストが極めて大きく、何度もあった変革の機会を組織の不条理で見送ることになり、変化に対応しきれずに消滅していった。

両会社から学ぶことは、取引コストを減らす重要性である。取引コストを減らすために、具体的にはどうすれば良いのか。菊澤の指摘がヒントとなる。

組織が絶えず非効率や不正を排除しながら改善していけば、改悪の不条理に陥ることはない。こうした組織は、絶えず未来に向かって進化する「開かれた組織」なのである。⁵¹⁾開かれた組織とは、外部からの批判をむしろこちら側から積極的に受け入れ、それをもとにして自ら変革する自律的な組織である。

組織の取引コストを減らすため、外部環境にあわせて自ら変革する自律的な開かれた組織を構築することは時代を問わず経営組織に求められることであろう。

組織の不条理

 人間は組織を構築することで取引コストをある程度節約できる。しかし、組織内部の取引コストが高くなると、社会的には非効率で非倫理的でも、組織内で何もしない方が効率的になる状況に陥ってしまう、人間組織が合理的に失敗する不条理が発生する。不条理には3つのパターンがある。

・全体合理性と個別合理性が一致しないとき、個々人や個別組織は全体合理性を捨てて個別合理性を追求し、その結果、全体が非効率的となって失敗するという不条理。

・正当性(倫理性)と効率性が一致しないとき、個々人や個別組織は正当性を捨て効率性を追求し、その結果、不正となって失敗するという不条理。

・長期的帰結と短期的帰結が一致しないとき、個々人や個別組織は長期的帰結を捨て短期的帰結を追求し、その結果、長期的に失敗するという不条理。

 いずれの不条理も人間の非合理性が失敗を生み出すのではなく、むしろ人間の合理性こそが人間を失敗に導くのである。

イギリス東インド会社の伸長と衰退

18世紀後半にはインドの大飢饉や現地職員の不正蓄財などによりイギリス東インド会社の財政状況は危機的状況に陥る。イギリス政府の有力者にはイギリス東インド会社役員の友人や会社株主が多く、またイギリス東インド会社がイギリス政府の債権者であるなど、その一民間企業とはいえイギリス経済と密接に関連して切り離せない状況になっていた。

例えば、1700年前後にマドラス総督であったイエール(Elihu Yale)の事例がある。社員の不正を監督する立場にあったにもかかわらず自らの地位を利用して蓄財に励んだ。現地の評議会で尋問が行われイギリス本国にも報告がされたが、結局イエールの政治力でものをいったのか、厳しく罰せられることはなかった。イエール個人についてはエージェンシー理論の典型的なモラルハザードの問題であるが、組織的にはイギリス東インド会社全体合理性よりも、イエールを罰することに伴うその関係者たちが取引コストを避けようと組織の不条理であったといえる。こうした事例は独占貿易の組織体では解決されることなかったため会社への批判が続いたが、改革は行われず不条理な状態が続いた。

会社改革や解散など抜本策を実施するためには取引コストが非常に大きくなりすぎていたのである。イギリス政府は1773年規制法を成立させて、資金を貸し付けるととともに、イギリス東インド会社の運営に直接影響力を行使するようになる。

こうした状況下で1776年にアダム・スミスが『国富論』を出版した。「スミスの提唱する自由貿易という考え方は、やがて知識人や政治家の間で多数派を形成するようになり、政府の政策に取り入れられて19世紀前半には東インド会社の死命を制するようになる。」⁴⁹⁾「海外においてイギリス製の綿織物の需要が大きくなった。資本家の数が増え、彼らが政治的に大きな力を持つようになった。資本を投じてアジアとの貿易事業を始めたいと考える人々は、東インド会社だけが東インドとの貿易を独占している現状は不当だと批判を強め、自由貿易を求めた。自由貿易こそが国を富ませるというスミスの理論は、その強い追い風となった。会社が生まれた17世紀初めの時点では常識だった独占貿易という方法は、時代遅れとなっていたのである。」

産業革命で資本家が力を付けた時代に合っては市場取引を進めるべきであったところ、改革のための取引コストが大きく、経済的合理性より特権維持を目的に独占体制を維持され、時代に組織体制を合わせられなかった。18世紀には当時としては民主的と考えられた組織であったイギリス東インド会社も19世紀の自由化の時代では特権組織であり、時代の変化に対応できない組織となっていた。自由主義経済の勃興に対して組織が対応することができず、その歴史的役割を終えてゆく。