休みない自己改革

ルイス・ガースナー『巨象も踊る』

•IBMは環境と伝統、勤勉の組み合わせによって、そして幸運に恵まれて、いまでは新しい種類の企業、一見矛盾する性格を併せもった企業の先駆けになる立場に立つようになった。その性格の一部を、わたしは2001年の年次報告書に書いた最後の「株主への手紙」でこう表現した。

•「規模が大きく、しかも動きが速い。企業家精神があり、しかも規律がある。科学を重視すると同時に、市場主導型である。世界規模で知的資産を作りだせるとともに、それを個々の顧客に提供できる新しい種類の企業であり、つねに学び、常に変化し、つねに自己改革を行っていく。強固で、事業を絞り込んでいるが、新しいアイデアをいつでも受け入れる。官僚主義、偽善、駆け引きを嫌う。実績に報いる。そして何よりも、活動のすべてで人材と情熱を求める。」

イノベーションの両輪

•イノベーションには資源動員と知識創造の両輪が必要である。

•個人や組織のクリエイティビティとは、革新的なアイデアの保有だけではなく、眼前に立ちはだかるリスクを乗り越え、新たな企てに果敢に挑戦する能力にかかっている。

•イノベーションへの資源動員にも、付随する高いリスクゆえの困難が伴う。

・事前に経済合理性を持たない(ただし将来大きく花開く可能性のある)逸脱行為をいかに支援し続けることができるか。これは成長を求める限り永遠のテーマである。

SECIモデル

•野中・竹内は組織における知識創造を「個人の信念が社会的な真実として正当化させるプロセス」として把握している。すなわち、個人が「暗黙に」保有する、新規のアイデアや因果メカニズムに対する仮説、つまり「信念」が、組織におけるやりとりを介して真実と認められるプロセスとして、知識創造を理解する。

•SECIモデルに描かれる組織の知識創造プロセスを駆動し、蘇秦する組織の能力、つまり組織のクリエイティビティとはなんであるのか。この点に関して野中は組織的知識創造活動を促進する要因として、①ビジョン、②駆動目標、③場、④対話、⑤実践、⑥知識資産、⑦環境が重要となることを提唱している。

モチベーションとクリエイティビティ

•動機づけには、何かを達成したいという欲求、認められたいという承認欲求、あるいは権力に対する欲求などに根ざすものなど多様なものがある。その中でも、クリエイティビティとの関係で注目されてきたのは、内発的な動機づけである。

•内発的な動機づけが、高いクリエイティビティに結びつくのはなぜだろう。例えば報酬に大きく動機づけられている場合は、与えられた課題に対して解決策を探る時には最も効果的・効率的だと思われるアプローチに集中する。十分に効果的あるいは効率的なやり方と思われるアプローチが見つかった場合にあ、さらなる探索は行わない。そのため、探索の幅や範囲は狭くなる。その一方で、課題に取り組むこと自体に内的動機付けがある場合は、人はさまざまな新しいアプローチを試すだろう。当然、探索の幅も範囲も広がる。これによって、クリエイティビティが高まる。

•これでの研究で、評価や監督、報酬など外的な動機づけによって内発的な動機づけが損なわれてしまう場合があり、そのような場合には、クリエイティビティはていかしてしまうことがわかっている。内発的な動機づけを損なわないように、むしろそれを保管してシナジーを生み出すような、外的な動機づけを設計する必要がある。

イノベーションを実現する資源動員と知識創造

•不確実性の高いイノベーションへの投資には、合理的な説明がつきにくい。そのような逸脱した資源配分がいかにして可能になるのか。これは、企業によるイノベーションの実現を理解し、それを促進するために、重要な問いのひとつ。

•知識創造のために資源動員が必要であると同時に、資源動員のためには知識創造が必要となる。資源動員と知識創造は、相互に影響を与えながら進化していくものなのである。

•大きな商業的成功をおさめているイノベーションの実現過程を振り返ると、はじめから計画されたとおりに順調に進んだというよりも、さまざまな技術的困難に直面し、社会的な抵抗や反対に遭い、中止の危機にさらされながらも、偶然に運にも恵まれ、紆余曲折を経て、どうにかゴールまでたどり着いたものが多い。